はじめに

 健康づくりのための身体活動基準20131)において、運動量の基準(スポーツや体力づくり運動で体を動かす量の考え方)は、以下のように示されています。

<18~64歳の運動の基準>

 強度が 3 メッツ以上の運動を 4 メッツ・時/週 行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。

 改訂版『身体活動のメッツ (METs) 表』1)によると、3メッツ以上で筋力(レジスタンス)トレーニングに当てはまる項目は以下の通りになっています。

メッツ個別活動基準を満たす時間
8.0健康体操(例:腕立て伏せ、腹筋運動、懸垂、ジャンピングジャック(ジャンプしながら手足を開閉)):きつい労力30分/週
3.8健康体操(例:腕立て伏せ、腹筋運動、懸垂、足や手を突き出す運動):ほどほどの労力63分/週
6.0レジスタンストレーニング(ウェイトリフティング、フリーウェイト、マシーンの使用)、パワーリフティング、ボディービルディング:きつい労力40分/週
5.0レジスタンス(ウェイト)トレーニング:スクワット、ゆっくりあるいは瞬発的な努力で48分/週
3.5レジスタンス(ウェイト)トレーニング:複合的エクササイズ、様々な種類のレジスタンストレーニングを8-15回繰り返す69分/週
改訂版『身体活動のメッツ (METs) 表』1)より筆者加筆

 運動基準を満たす1週間当たりの運動時間は、運動強度が高くなるほど短い時間で済むことになります。ただし、注意したいのは、「休憩しないで、運動を連続しておこなった場合」2)の時間ということです。例えば、腹筋運動の場合、上体を起こすのに2秒、寝るのに2秒の合計4秒で1回とすると、15回で1分かかります。ほどほどの労力(3.8メッツ)で続けられると仮定すると、63分で945回(15回×63セット)行うことができれば、週1回の腹筋運動1種目だけで運動基準を満たすことが可能です。また、1種目を15回×3セットずつ行うとすると、21種目行うことができれば週1回の運動で運動基準を満たすことができます。

文献紹介

石井3)によると、

  1週間に1回の頻度では「筋力は上がって落ちて元に戻るといった繰り返しで、トレーニング効果があらわれない」と一般論ではいわれますが、実はそうではなくて、1週間に1回のペースでやっていても、身体の適応は、おそらく1週間に1回やることがちょうど良いペースとなるようなサイクルに入ってくれます。実際に大学で1週間に1回の体育実技の時間にトレーニングをさせるような場合でも、きちんとやっていけば学生の筋力はかなり伸びてきます。

とのこと。

ヘティンガー4)によると、

 アイソメトリックトレーニングにおいては、週1回のトレーニングは週7回トレーニングしたときの30%程度の筋力向上が見られたとしています。

 また、一定期間実践したトレーニングを中止した後の筋力の変化を調べた実験では、毎日トレーニングを行った場合、短期間でかなり向上した筋力が、トレーニングを中止すると比較的短期間に元の筋力に戻ることが観察されたのに対し、週1回のトレーニングを行った場合、筋力向上は緩やかですが、トレーニング中止後は比較的長期間かけて緩やかに減少していったことが観察されたとのこと。

 内田5)は、女子大学生を対象に、週1回の授業で行った8週間のレジスタンストレーニング(10種目、50%max以上で15回2セット)による周径囲と最大挙上重量の変化について報告しています。

 結果は、周径囲には一部では有意差が見られたものの、全体的にはあまり効果がなかったとのことです。除脂肪体重と最大筋力の増加が認められたそうです。

 久野ら6)は、60歳以上の高齢者を対象に、週2回群(平均65.2歳、12名)と週1回群(平均67.1歳、19名)と非実施群(平均68.0歳、16名)に分けて、1年間、「筋力トレーニングとしては運動の強度を20%程度低めに設定」して、筋力トレーニング前後の筋横断面積を報告しています。

 結果は、非実施群は有意に減少し、週1回群は変化なし、週2回群は有意に増加したとのことです。

 内田ら7)は、短大生35名(男子6名、女子29名:平均年齢18.6±0.4歳)を対象に、週1回の体育授業で実施したサーキットトレーニングが体力と感情に及ぼす影響を報告しています。

 トレーニング内容は、自体重で行う6種目を3セット(セット間に1分休息)、事前に測定をして設定した回数を15秒以内で反復、のち約45秒休息(垂直とびのみ最大努力で7回)で行われました。

 その結果、男女いずれも最大反復回数と最大跳躍高が統計的に有意な増加を示したとのこと。また、感情も体力レベルに関係なく快感情の改善に効果的であることが示唆されたとのことです。

 林ら8)は、大学1年生の男女を対象に、授業の中で10週間に亘って、ベンチプレス、スクワット、アームカールと学生が選択した種目(マシン含む)3種目、合計6種目を10RMの負荷で(スクワットは20RM)行ったトレーニングが筋力に与える影響について報告しています。

 それによると、すべての被験者において、形態には変化をもたらさなかったものの、ベンチプレスとアームカールの1RMが10%以上増加したという結果でした。

RM(repetition maximum)は、「ある一定の抵抗(負荷)を用いて関節運動を行うとき、連続して行える最大回数、あるいは最大反復回数のことです。」9)

 磨井ら10)は、大学授業における週1回のレジスタンストレーニングが筋力増加をもたらすのか、また、トレーニング前の筋力レベルとトレーニング効果の関連や筋力増加の部位差についても報告しています。

 対象は、授業を履修した男子大学生47名。そのうち、運動部所属の学生19名:運動群(19.2±1.0歳)、運動習慣のない一般学生28名:一般群(18.4±0.6歳)に分けて比較検討しています。

 トレーニング期間は6~7週間、トレーニング内容は3種目のスロートレーニングを約10分と16種目のウエイトトレーニングを約60分でした。スロートレーニングは1回に8秒かけて8回を最低1セット、ウエイトトレーニングは70%1RM強度で10回を1セットで行われました。

 結果は、体重と体脂肪率は一般群で有意な減少、運動群では有意な変化なし。1RM(1回しか反復できない重量≒最大筋力)は、一般群が8種目で有意な増加、運動群では5種目で有意な増加が見られました。また、16種目の平均は一般群、運動群ともに有意な増加が見られました(効果の大きさは小さい)。1RMの増加率は一般群でトレーニング前の筋力レベルが低いほど効果が大きく、上肢、体幹、下肢の3部位間で筋力増加に差は見られなかったとのこと。

 石倉ら11)は、大学生の男女を対象に、6~7週間の目的別トレーニングによる身体に与える影響について検討しています。その中で、筋力向上・筋肥大目的でトレーニングを実施した学生は36名(男子36名、女子2名)。トレーニング内容は、筋力測定をしたマシン5種目と任意の種目を1RMの60~80%、反復回数は10~15回、セット数は3~4セット、休息時間は1~2分。

 結果は、男子学生のみ全5種目の筋力ならびに筋肉量は有意に増加し,体脂肪量と体脂肪率は有意に減少したとのこと。ただし、授業以外のトレーニングや運動の実施についてはコントロールしていないとのことです(運動部または運動系のサークルに男子 4 名,女子 1 名が所属)。

 福崎12)は、平成22年度~平成30年度に授業を履修した213名の大学院生(年齢:23.4±2.1歳)を対象に、授業の中で8週間に亘って行った筋力トレーニングが筋力に及ぼす効果を報告しています(体育・スポーツ科学を専門とする学生は18名)。トレーニング時間は約20分間(待ち時間や移動時間を含む)で、9台のマシンと自重で1種目の計10種目を、前半4週は,70~80%1RM の負荷で8~10回を1セット、後半4週は,2セット(全種目ではない)行っています。

 その結果、各マシンの1RM値は、トレーニング開始4週後でトレーニング前に比べて増加し,8週後ではトレーニング前や4週後よりも増加していたとのこと。また,初期値が低い学生ほど変化率が高いことも明らかとなったとのことです。

まとめ

 以上、現時点でわかっている週1回のトレーニング効果をまとめると、大学生年代の男女で筋力向上は認められ、特に初期値が低いほど変化率が大きい。10週以内の短期間では形態への変化は認められない。身についた筋力は比較的維持されやすい。60歳以上の高齢者は筋量の変化はない(減らない)といったところでしょうか。今後も継続して調べてみます。

文献

1)  公益財団法人健康体力づくり事業財団:健康運動指導士更新必修講座テキスト,(2014).

2) NPO法人日本健康運動指導士会編:特定保健指導における運動指導マニュアル,サンライフ企画,(2007)

3) 石井直方(著):レジスタンス・トレーニング,ブックハウスHD,(1999).

4) Th.ヘティンガー(著)、猪飼道夫・松井秀治(共訳):アイソメトリックトレーニング-筋力トレーニングの理論と実際-,大修館書店,(1970).

5) 内田英二:女子大学生における週1回のresistance trainingによる最大挙上重量および周径囲の変化,国学院短期大学紀要第18巻,(2000).

6) 久野譜也,村上晴香,馬場紫乃,金俊東,上岡方士:高齢者の筋特性と筋力トレーニング,体力科学52巻,Supplement号,(2003).

7) 内田英二,神林勲:週1回8週間のサーキットトレーニングが大学生の体力および感情に与える影響,体育学研究,51巻1号,(2006).

8) 林直亨,宮本 忠吉:週1回の大学授業における筋力トレーニングが筋力に与える影響,体育学研究54巻1号 ,(2009).

9) 栗山節郎(総監修),進藤宗洋・魚住廣信・金子基子(監修):トレーニング用語辞典,森永製菓株式会社健康事業部,(1990)

10) 磨井祥夫,柳川和優:週 1 回の授業におけるレジスタンストレーニングが大学生の筋力に及ぼす影響.広島体育学研究,第39巻,(2013).

11) 石倉恵介,佐藤和,富川理充:週一回の大学体育授業におけるトレーニングが身体に及ぼす影響,専修大学スポーツ研究所紀要第40号,(2017).

12) 福崎千穂:週1回の大学院体育授業におけるトレーニングが学生の持久力と筋力に及ぼす効果,大学体育スポーツ学研究18巻,(2021)